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ICMIFブログ記事から:コロナウイルス「大災害」が保険に及ぼす影響について

Willis Re(ICMIF協賛会員)のグローバル大災害分析チーム責任者であるTim Edwards 氏(写真)ならびに Risk Management Solutions (RMS) の最高研究責任者であるRobert Muir-Wood 氏によるこの最新のゲストブログを共有できることを喜ばしく思います。このブログ記事はももと Willis Towers Watson のウェブサイト用に執筆されましたが、Willis Re および Risk Management Solutions(RMS)の許可をいただき、ICMIF会員のためここに転載されたものです。
We are pleased to share this latest guest blog by Tim Edwards, Regional Director – Head of Catastrophe Analytics – International Globals at ICMIF Supporting Member organisation Willis Re and Robert Muir-Wood, Chief Research Officer at Risk Management Solutions. The blog was originally written for the Willis Towers Watson website. The article is reproduced here for the benefit of ICMIF members with the kind permission of Willis Re and Risk Management Solutions (RMS).

 

COVID-19(新型コロナウィルス)の経済的影響はかなり大きいものとなる可能性がある。損失のどの部分が保険で担保されるのだろうか?

COVID-19 の経済的影響は明らかに増大し、2020年の世界の GDP 成長率は当初想定された3%の半分に過ぎないと予想されている。2019年の世界のGDP 86.5兆米ドルと比較すると、約1.3兆ドルの経済活動の損失に相当する*。これは、2002~2003年のSARS発生から推計される経済損失の25倍である。COVID-19による損失は、経済の多くの側面から出現するであろう。

損失のどの部分が保険で担保されるのか?

私たちはまず、これが進行中の大災害であり、発生原である中国ではピークを迎えた可能性があるとしても、世界的な影響が依然として拡大していることを認識しておく必要がある。COVID-19の拡大はすでに2か月続いており、さらに1年間続く可能性もある。保険が補償する可能性のある保険引受損失の多くは将来のものである。保険会社は、大災害が続いている間に、年間の保険契約を更新しなければならないだろう。

ただし、この初期段階においてCOVID-19がもたらす保険損失は中規模の自然災害に相当する程度と見られている。実際問題、保険会社のソルベンシー比率が一部ですでに警戒レベルに低下していることから、多くの保険会社が主に懸念する点は、投資収益に対する金融市場の影響である。

損失を保障する可能性が高い保険種類は何か?

イベントのキャンセル補償をはじめ、この保険種目は保険損害全体の大きな割合を占める可能性がある。主要なスポーツイベントは既に中止、規模縮小、無観客試合とされ、一部のコンサートも中止となっている。ウイルス感染者数が見込み通り急増した場合、スポーツ、音楽、礼拝、祝賀のあらゆる大規模な集会が中止となり、今後当面は保険付保が困難になることが予想される。当然ここには、約20億米ドルの保険付保額が見込まれる東京オリンピックが含まれる可能性がある。2月上旬以降、COVID-19の拡大可能性が認識されるにつれ、さらなる保険付保はできなくなっていたであろう。この種の保険を扱う保険会社にとって、「法定伝染病」による免責が該当しない場合に、2020年3月~12月におけるすべての大規模イベントのキャンセルにともなう支払いなど、そのコストは予想最大損失額を大きく上回りかねない。

パンデミックの宣言は旅行保険の損失を増加させる可能性がある

旅行保険は、地方自治体の「法定伝染病」発生にかかる通知や、世界保健機関(WHO)による現在のようなグローバル・パンデミック(世界的大流行)の宣言に対応している。

そのような宣言が出される以前、新型コロナウイルスで病気となった旅行者は、旅行保険の契約内容に基づき個人傷害保険金を請求していた可能性がある。旅行保険は通常1〜2か月先の旅行のため購入されており、保険会社はこのウイルスに関連する健康またはキャンセルに対する保障の提供を2020年3月までには停止している。**

信用保険は、企業の債務不履行あるいは支払不能の長期化による商品やサービスの対価の不払いに対応している。短期的には、サプライチェーンの混乱と収益の減少により、保険金請求が増加すると予想される。最も影響を受けるセクターには、旅行・観光、エンターテイメント、小売(スーパーマーケットを除く)が含まれるだろう。信用保険会社はすでに世界的な景気後退の可能性を検討しており、それら保険会社が取るアクションは加速するだろう。アクションは、保険料の引き上げ、保険料間隔の短縮、制限の削減あるいは撤廃となる可能性があり、特に新型コロナウイルスの悪影響が大きいセクターや国に重点が置かれるだろう。

財産保険種目では、特に商業および産業分野の契約における事業中断(BI)補償の場合、大半の契約で、あらゆる保険金請求への対応に物的損害が必要となる。収入または利益の損失に対する補償が発動されるには、事業中断保険契約において、保険対象の場所で企業が使用する財産を対象として非損害的損失への拡張担保条項を購入する必要がある。米国と英国、および大企業の顧客の場合は、法定伝染病(ホテル、レストラン、ゲストハウス、病院に提供されるもの)、アクセス拒否、ロス・オブ・アトラクションなどへの補償を含む拡張担保条項を購入できる。ただし、2003年のSARS発生による支払いの経験を受け、これらの補償はより厳密な条件を付けて提供されている。

英国とアイルランドにおいてCOVID-19は「法定伝染病」と宣言されているものの、所得喪失と危機対応をカバーする保険契約においては保障がなされるだろう。***

都市全体が隔離された場合、アクセス拒否が発動される可能性がある。また、客が感染を恐れ近寄らない場合、ロス・オブ・アトラクションの条件が満たされる可能性がある。ただし、これらの追加的担保は一般には提供されていない。

偶発的事業中断補償は、中国のサプライヤーの事業中断により欧州あるいは米国での事業が機能できなくなった状況を担保するため利用できる可能性がある。サプライヤーが特定されている場合、通常、その担保条件は、不特定のサプライヤーに対するよりも上限が高く設定される。このような契約は、被保険者自身の契約により補償されたであろう第三者施設での物的損害が存在する状況を担保することを意図している。

一部の保険種目でCOVID-19が対象外となる可能性

偶発的事業中断の請求は、非損害的損失への拡張担保条項が付帯されかつ「法定伝染病」除外がない場合を除くと、やはり支払い対象となる可能性は低い。いかなる「損害」の定義においても、取り巻く都市環境におけるCOVID-19の存在に起因するものであるとの主張は難しいだろう。****

賠償責任保険の請求は、傷害や死亡が過失の結果であると主張される場合に想定される。 たとえば、ウイルスの侵入を防ぐためのより適切な予防策を講じず、ウイルスの蔓延防止や効果的な隔離を行わなかったため、クルーズ船のオペレーター(またはホテルの所有者)に対し将来集団訴訟が起こる可能性がある。ウイルスが老人ホームに持ち込まれ死者を出す結果になった場合の訴訟もあり得る。米国の私立学校は、生徒の感染があった場合の訴訟を恐れてすでに閉鎖されている。賠償責任保険の請求は、解決までに何年もかかる可能性がある。

中国の影響を受けない製品に全面的に依存したサプライチェーンを構築したメーカー企業が、株価の下落に対する防衛費用または請求の支払いをカバーするため、会社役員賠償責任保険(D&O)ならびにエラーズ・アンド・オミッション保険(E&O)での賠償損失が発生するかもしれない。企業価値が同業他社のベンチマーク以上に低下したことが示されれば、そのようなケースが起こる可能性がある。

病院、クルーズ船、航空機の乗務員、バス、タクシーの運転手、武漢やテヘランの危険度の高い地域にある出先の従業員など、職場で従業員が感染した場合は、労災補償の支払いが発生する可能性がある。

中国では、他の影響を受けた国と同様に、ウィルスにより病気となった人々の医療費は全て国が負担している。医療保険会社は、2003年のSARS発生後のアジアでプルデンシャルが新規事業で17%の伸びを見せたときのように、今回のウィルス発生後の新規契約の急増を予測している。

COVID-19による生産年齢の死亡率がそれほど高くならないことを前提とすると、定期生命保険の支払いは抑制されたものとなるはずである。

再保険の補償はイベントの定義方法に大きく依存

この大災害が長期間継続した場合、その保険損失を、特定の短期間の事象に常に帰結できるわけではない。再保険契約が「ノンプロポーショナル」の場合、保険損失の大半は保険会社に留まる可能性が高い。なぜなら、そのような契約では、保険損失を集計し再保険会社に報告できる期間が制限されるからである。しかし、ミュンヘン再保険は、パンデミックの対象となるすべてのイベントが中止された場合、潜在的な偶発損失が最大5億ユーロとなることを認めた。再保険会社にとって、パンデミックにより数十万人が亡くなった場合に、生命保険会社への支払いにおいて、最大の潜在的支払いがトリガーされる。今までのところ、保険会社と再保険会社が投資家との対話を通じて表明した主な懸念は、バランスシートの投資サイドにおける損失についてであった。

パンデミックは保険の対象となる危険か?

大流行による経済的損失のかなり大きな部分は保険では担保されないため、保険・再保険の観点からCOVID-19のパンデミックについて最も注目すべきは保障ギャップ(保険で填補されないコストの割合)の規模がどの程度かである。そして今回のCOVID-19は、パンデミック関連の経済損失が保険の対象となる危険であるかどうか、もし全体が対象でない場合に誰が責任を負うべきかについて疑問を投げかけている。一方で、将来の保険市場の成長機会と、その結果として将来における同様の事象に対する社会の回復力を強化するための機会が明らかに存在している。

脚注
著者
Risk Management Solutions (RMS)  最高研究責任者 Robert Muir-Wood 氏
RMSの科学技術担当最高研究責任者で、同社の新領域および新たなリスク・アプリケーションのためのモデルの研究部門を率いている。ロンドンを拠点とし、広範囲の危険について確率論的大災害モデルを20年以上にわたり開発した経験を持つ。大災害イベントのクラスタリング、保険損失の増幅、時変活動率、および「メガ」大災害のモデルに焦点を当てている。
2007年と2011年の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)評価レポートの保険、金融、気候変動にかかる主執筆者であり、2016年に出版された最新著書「The Cure for Catastrophe」を含め7冊の本を執筆。また、科学および業界の出版物への論文や記事の掲載多数。
大規模災害の財務管理に関するOECD国際ネットワークのハイレベルのアドバイザリー・ボードの議長を務める。また、ロンドン大学リスク防災研究所の客員教授でもある。ケンブリッジ大学から自然科学の第一級優等学位と地球科学の博士号を取得。
Twitter:@RobertMuirWood
Willis Re グローバル大災害分析チーム責任者 Tim Edwards 氏
2011年にWillis Reに入社し、グローバル・クライアント向けに大災害分析を管理する責任を負い、Willis Reのモデル研究・評価も担当する。ロイズのシンジケートで17年前にキャリアを開始した。ロイズでは2004年と05年のハリケーン・シーズンへの対応およびレポート作成の一部を担当した。その後はRMSに移り、英国の多くの保険会社が現在も使用している2007年の英国の洪水モデル構築などを手掛けたチームで働く。さまざまな国際的な大災害プールのサポートを行なった経験に加え、英国と欧州の大手保険会社での業務からの、英国と世界の洪水モデリングに関する豊富な知識を持つ。エコノミストのバックグラウンドを持ち、ACII(英国勅許保険協会準会員)とCFA(米国証券アナリスト)レベル1の資格を保有する。

 

ICMIFサイトの英語blog記事(以下にリンクを表示)を許可を得て翻訳・転載しています。
記事日付 2020.3.19

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