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活動の記録

【AOA会員団体訪問報告 No.2】 NTUC Income(シンガポール)

NTUC Incomeの組織改革・マーケティングとデジタル革命への取り組み

全労済 経営企画部
藤井 奏枝  

Kanae Fujii, Zenrosai

私は2016年11月に、シンガポールのNTUC Income社がホストとなり同地で開催されたICMIFのLeadership+プログラムのうちHigh Potential Course(HPC)に参加しました。HPCのカリキュラムの一環として、研修初日にNTUC Income本社および支店を訪問し説明をしていただく機会がありましたが、非常に興味深くまた印象に残る内容であったため、このたびレポートにまとめ皆様にもご紹介したいと思います。

ご存知でない方のためにNTUC Income社について簡単に触れたいとおもいます。同社はシンガポール市場で非常に有力かつ高いシェアを誇る労働組合系の協同組合保険会社でしたが、やがて同国の保険市場は経済発展とともに外資系保険会社の標的となりました。

これを機に、従来の組織基盤への依存や、「安さ」の訴求ではなく、成熟した市場にあわせた「価値」を提供できる組織になる必要があると考え、社会的な目的のために商業的なアプローチをとることを掲げ、組織の質の向上を目的とした改革「文化革命」(2007年8月から1,500日間)を通じ、組織の拡大とともに内向きになっていた組織風土をよりプロフェッショナルな組織へ引き上げました。

さらに、商品の再ブランド化により古いブランドイメージを脱し、若い消費者にアピールすることにより、他社との差別化を目指した改革「オレンジ革命」(2011年9月から1,500日間)を立て続けに実施し組織変革を行なってきました。これらの歴史を見ると、同社が極めて実践的な組織であることが分かります。

現在進行中である「デジタル革命」は、消費者の行動変化に対応すべく、様々なテクノロジーを商品やサービスに導入するとともに、スタートアップのような若い企業とも共同し、新たなアイデアによる取り組みなどを実践しておられます。

2016年10月25日に東京で開催されたAOAセミナーにおいて、同社のケン・ウンCEOが、「われわれ共済団体は消費者の行動変化に対応していかなければならず、デジタル化が保険・共済を変えていきます。われわれはその変化に置いていかれてはならなず、改革を実践し変化に追いつくことこそがわれわれ共済団体が生存し成功していく秘訣です」と強調されていたことは、同セミナーへの大勢の参加者の記憶にも新しいところです。

Ken_Ng_NTUC_Income_Singapore
ケン・ウンCEO

※ NTUC Incomeの概要についてはこちらでご覧ください。

Ⅰ.NTUC Incomeの直近の取り組みについて                                                     

    1. 日 時: 2016年11月7日(月)14:00~15:00
    2. 場 所: NTUC Income本社
         
    3. 説明者:CEO (Chief Executive Officer)  Ken Ng (ケン・ウン)氏  (在籍10年)、 CMO (Chief Marketing Officer)  Marcus Chew (マーカス・チュウ)氏  (在籍2年)
    4. 参加者: ICMIF・High Potential Course 参加者7名、研修講師(Origos Consultancy社) Steve Barry氏
    5. 概 要:ケン氏から「組織改革とデジタル・イノベーションの活用」(Organisation Change and Digital Innovation)のタイトルのプレゼンテーションが行われた。チュウ氏からの補足や、質疑応答の主な内容は以下の通り。

(1)「文化革命」について

①内部改革

  1. マネジメント層を大きく変更して初めて臨んだ改革。中国系のルーツも持つシンガポールにおいては、「文化革命」という単語を用いること自体が、取り組みの重要性を示すことの一手段であった。
  2. 組織内を変革することは、ブランドイメージ等の外部変革に比べて難しく、時間がかかる。実際、「文化革命」開始から、その後の「オレンジ革命」を経て、すでに10年が経つが、まだ内部改革は途上である。
  3. リブランディングやデジタル化等、「外枠」や「外部からの認識」を更新していくことで、内側が変わらざるを得ない状況を作り出してきた。

②内部改革とリーダーシップ

  1. 四半期ごとに実績が評価される株式会社に比べて、社会的企業は、長期的な視点を持つ分、ビジョンや進む方向があいまいになりやすい。
  2. マネジメント層の役割は、このあいまいさを具体的な姿に変え、それを職員の共通理解とさせた上で個々の役割を全うできるようにすること。
  3. 「基本的な価値観」、「求められる専門性」、「顧客対応時の姿勢」など、項目ごとに明確化していった。
【例】「社会的企業とは何か」という共通理解が職員の間にはなかった。審査部門では、「契約者に対して共感を持ち、なるべく契約者優位に判断する」ことが社会的企業としての役割だと誤解していた。→「共感」ではなく「公平」が必要な価値観であると明確化し、業務品質の統一・向上を求めた。

③人材の確保と育成

  1. 内部改革の一環として、人材の入れ替えも多く行われた。
  2. 当時のマネジメントチームのメンバーは、現CEOのケン・ウン氏以外は、10年間で全員すでに離職している。
  3. 職員レベルでも、この10年間は内部での育成よりも、外部からの人材確保が中心であった。内部での人材育成は今後の課題と認識している。
  4. 5年前からは、若年層の育成や活用を目的に、マネジメント研修プログラムを実施している。リーダーチームをつくりマネジメントに触れさせているが、昇格は業務で実績を出すことが求められるため容易ではない。
  5. 部門により専門性や必要な能力が異なるため、年齢層も異なる。保険事業の中心的部門は、熟練層が多い。マーケティングチームは若く、多くは28~30歳、平均年齢は30代半ば。

(2)「オレンジ革命」について

①ブランドロゴ

  1. 新ロゴは約2年間かけて検討され、色の変更に加えて、組織基盤のイメージを弱めるため「NTUC」という単語を出さずに、「NTUCロゴ」を頭に置く現行デザインとなった。
  2. その過程では、いくつかの案の中から脳科学的に現在のデザインが好まれやすいことを示し、内部からの反論を説得した。
  3. ロゴの中にある”made different”は、組織の差別化の根拠として、そもそも株式会社等とは成り立ちが異なることを表している。

NTUC INCOME LOGO

 ②ブランド認識の統一

  1. 保険は目に見えない金融サービスであるため、ビジビリティ視認性)を高めることを目的に、「色」を統一し前面に出した
  2. 例えば、「オレンジ・フォース」(自動車保険契約者の事故現場にオレンジ色のバイクで駆け付けるサービス)も、NTUC Incomeのサービスを顧客や世間に視認させ、ブランドを認知させるための戦略。

③広告宣伝

  1. 新しいブランドイメージ確立のため、若者に受けるつくりに全て切り替えた。
  2. 当初は既契約者層からの反応が心配されたが、イメージの刷新のために、これまでの路線と並行させることはしなかった。
  3. 結果的に、ブランドの新イメージが明確になり、また広告宣伝の対象者層の親世代である既契約者からは、子どもに保険を理解させるものとして評価されている。
  4. 「協同組合」の訴求は行わない。「協同組合であること」を訴えるのは、自組織を中心に考えた思考。顧客中心に考えたとき、サービスの中で「協同組合らしさ」が感じられれば良い
  5. リスクを負うことも認め、挑戦的な広告宣伝を行っている。許容範囲については常に議論しているが、ボーダーラインぎりぎりを狙っていることもあるため、特にSNS上の反応は注視している。
【例】若年層への退職保障の訴求として、「『退職(リタイヤメント)』を待たずに、今から『退職準備(リタイヤリング)』を」と掲げて大々的なキャンペーンを行った。女優を起用し「リタイヤリングをしている」と言わせたところ、女優引退という噂が広がりSNSで炎上した。TV局に求められ「キャンペーンである」という説明広告を全国紙に7日連続で出稿した(訴求内容に非や誤りはなく、あくまで謝罪は行わなかった)。

(3)「デジタル革命」について

①デジタル技術の活用について

  1. 「消費者がサービスを決める」ことを前提に、求められるものを提供する
  2. 人々がデジタルツールでのコミュニケーションを増やしている現状にあわせ、顧客と保険会社の連絡手段も更新していっている

②「アドバイザーコネクト」(オンラインでのアドバイザーマッチング)

  1. 顧客が自ら選んだアドバイザーと、オンラインチャットで保障相談を行うサービス。
  2. 難しい技術ではなく、「顧客に決定権がある」という発想の転換によるもの。
  3. 平均5-10分のチャットの中で、電話や面談という次の段階につなげる技術がアドバイザーには求められる。文字でのタイムリーなコミュニケーションやクロージング等、アドバイザーが新しい技術を習得している段階である。
  4. 運用開始から2年が経ち、顧客が好むアドバイザーの傾向の把握などのデータ分析を今後行う予定。

Ⅱ.NTUC Income支店視察                                                     

  1. 日 時: 2016年11月7日(月)15:30~16:30
  2. 場 所: NTUC Income ブラス・バサー(Bras Basah)店 【本社ビル内に併設】
     
  3. 説明者: NTUC Income ブラス・バサー店マネージャー
  4. 参加者: ICMIF・High Potential Course 参加者7名、研修講師(Origos Consultancy社) Steve Barry氏
  5. 概 要: 今回視察した店舗は本社に併設された最も大きな旗艦店。

(1)店舗展開について

店舗数など

  1. 独立店舗:7(うち2つは窓口機能を持たないアドバイザー拠点)、スーパーマーケット内等の簡易店舗:5
  2. オレンジ革命の期間中に、効率化のために支店の統合・整理を行った。
  3. 営業時間は、以下の通り。ピークタイムは店舗により異なる。
店舗種類 営業日  開店時間 閉店時間  備考
独立店舗 月 ~ 金 10:00/10:30/11:00 18:30/19:00/19:30
土/土日 10:00 16:00/16:30 1店舗は土日営業なし
簡易店舗 月 ~ 日 11:00 20:00

(2)店舗の仕組みについて

① 来店時

  1. 来店者が入り口で公的証明書「国民登録番号カード(NRIC)」をスキャンすることで、本人確認と来店者情報の収集を行う。
  2. あわせて来店目的を下表の5つから選択し、待合番号票を取得してもらう。
  3. 全店舗の来店者情報は、リアルタイムで中央バックオフィス後述に集中され、店舗の稼働率を把握・管理している。
  4. 「待ち時間として耐えられるのは18分まで」という調査結果にもとづき、目標時間を設定し、全支店で9割方達成している。

1. 自動車保険の更新 来店者の約5割を占める
2. 保険金請求    -
3. 掛金支払い    -
4. 高齢者 65歳以上は優先的に案内
5. その他 新規加入目的での来店は少ないため、項目設定されていない

② 窓口対応

  1. 独立店舗内は、以下の3つのカウンターからなる。
    1. 継続・保全・請求窓口(8-14席):メインのカウンター。手続きの最後に、保障内容の確認や相談の希望がないかを確認し、意向があれば 2.のカウンターに誘導する。
    2. 新規・追加加入用窓口(10-14席):アドバイザーが常駐し、新規加入者に加え、他の目的の来店者へのアップセルやクロスセルを行う。「手続きをしているうちに、いつの間にか勧誘され加入していた」ということがないよう、保障相談や加入に関することは分離している。
    3. 支払い用窓口(3-5席):法律上、金融機関には、金銭授受を行う窓口を他の窓口から独立させることが求められている。
  2. カウンターで話す内容は常に録音しているスタッフの教育が主な目的であるが、紛争になった場合の証拠にも用いる。来店者が録音内容の確認を求める場合は、警察に申し立てをし、その証明書をNTUC Incomeに提出することで許可する(それ以外は例外なく受け付けない)。店舗入り口付近に注意喚起ポスターを掲示することで、録音を承認しているものとみなす。
  3. カウンターには、顧客からのフィードバック用のタッチパネルを設置し、「今回の接客への満足度」を6段階で評価してもらっている。任意だが、約7割の回答率で、多くが「5:良い」「6:とても良い」を選択。顧客の回答はリアルタイムで担当者と中央バックオフィスに連携される。これにより、担当者自身が目の前の顧客からのフィードバックを受け、今行なった接客をすぐに振り返ることができる。また、「1:とても悪い」「2:悪い」であった場合は、支店の管理者が顧客にその場でヒアリングを行ったり、レコーディング内容を確認したりしている。

(3)中央バックオフィスについて

① 設置場所

  1. 本社併設支店には、支店の裏に全支店の情報を一元管理する中央バックオフィスを設置している。 

② 機能

  1.  コールセンターの中央管理機能を応用し、リアルタイムで一元的に把握・管理している情報の一例は以下の通り。
    1. 各支店の映像
    2. 支店担当者情報(担当者氏名、接客中・待機中・休憩中等の稼働状況)
    3. 来店者数(入り口での待合番号票から、来店目的/手続き内容、待ち時間)
    4. 支店稼働率(来店者数、担当者稼働状況、来店者待合状況からの稼働率)
    5. 顧客満足度フィードバック結果
  2. スタッフ2名が常駐し、支店で解決できない問題のエスカレーション[1]にチャットと電話で対応する。窓口職員が来店者対応をしながら、PC操作を行う中でエスカレができるため、チャットの使用が多い。
[1] エスカレーションとは、マーケティング用語、特にコールセンター用語で、顧客対応においてオペレーター自身だけで対応が困難な場合、上位の管理者やスーパーバイザーなどに交代して対応してもらうこと。 また、上位者の指示を仰ぐこと。 略語はエスカレまたはエスカ。

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