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レポート

新たなリスクが顕在化するにつれ米国サイバー保険市場での収益性が不透明に

2019年の米国サイバー保険市場の計上元受保険料は前年比11%増の22.5億米ドル(2,385億円)となりましたが、ICMIF協賛会員であるAMベストの最新レポートによると、伸び率は前年度から鈍化し、この傾向は4年連続となりました。

最近のベスト市場セグメント報告書「サイバー保険:新たなリスクが顕在化するにつれ収益性が低下」の中で、AMベストは、サイバー脅威が拡大しリスクに対する認識が高まる中で計上元受保険料が毎年30%以上伸びた2016年から2017年に比べ、伸び率が大幅に鈍化したと指摘しています。

同報告書によると、訴訟の長期化は、サイバー攻撃が予想よりも長いテールを持つ可能性があることを示しており、いわゆるサイレントサイバーを管理することの重要性が強調されています。さらに、ヘルスケア業界におけるデータの侵害やデータのキッドナッピングのように、ランサムウェア攻撃の頻度と深刻度はエスカレートしています。

パンデミックとサイバー攻撃の類似性を考えると、新型コロナウィルスによって引き起こされた大規模な世界的な経済的・社会的混乱は、保険会社に、自らとその顧客に透明性への期待を示すための、ストレステストの見直しと強化、保険契約の明確性の向上への努力を迫っています。

今年の報告書のハイライトは以下の通りです。

      • 単独のサイバー契約の保険料は2019年に14%成長し、パッケージ型サイバー契約の伸び率7%を顕著に上回っており、サイバーリスクに関する各組織の懸念の高まりと、サイバーリスク保障のみを目的として保険を購入する戦略的選択を浮き彫りにしています。
      • 2019年の保険金請求件数は2017年から倍増して約1.8万件となっており、保険料率がこの上昇ペースに追いつけない場合、価格設定上の問題を引き起こす可能性があります。さらに、単体契約における損失の直接的支払いと、防衛およびコスト抑制費用は、2018年の23.1%から2019年には32.5%へと3年連続で増加しました。
      • Chubb INAグループは、サイバー元受保険料3億5,690万米ドル(378億円)と、XL再保険アメリカ・グループ(XL Reinsurance America Group)およびアメリカン・インターナショナル・グループ(American International Group)を抑え、2019年もサイバー保険会社でトップの座を維持しましたが、そのほぼすべてがパッケージ化された保険でした。
      • ハートフォード保険グループ(Hartford Insurance Group)は、年度末時点での保有契約件数が約54.3万と、引き続き最多のサイバー保険契約数を維持しました。

同報告書は、サイバー契約および報告方式の標準化が行われていないこと、およびサイバー保障を引き受けるキャプティブおよびサープラス・ラインの保険会社がかなりの割合で利用されていることを考慮すると、AM ベストの市場数値は控えめに見積もられていると指摘しています。

保険会社は、サイレントサイバーのリスクを削減し排除するために、明確さを実現し、非サイバー契約におけるサイバー保障をきちんと除外するべく大きな努力をしています。同報告書によると、顧客や企業はより洗練されてきており、個別のサイバー保障を望んでいます。なぜなら、彼らは他のリスク(例えば、取締役や役員、財産)が、彼らのアグリゲート・カバーに食い込むことを望んでいないからです。AMベストは、包括的なリスク管理の実践が、予想外のショックが発生した際の備えに役立つと考えています。

AMベストTVの最近のエピソードにおいて、AMベストのアソシエイトダイレクターであるフレッド・エスラミ(Fred Eslami)氏、そしてシニア産業アナリストのサム・ハニグ(Sam Hanig)氏が、拡大を続ける米国のサイバー保険市場について語っています。彼らは、増え続ける脅威の状況と大きな損失の可能性を検証し、市場の将来は不確実性に満ちているように見えると結論づけています。

このインタビューでハニグ氏は、当報告書で言及されているサイバー攻撃と現在進行中のパンデミックとの類似性に言及しました。「現在のパンデミックとサイバーリスクの間には、多くの著しい類似点があります。どちらのリスクにも国境がありません。どちらも地理に全く注意を払いません。どちらも、サプライチェーンに影響を与え、事業中断のために壊滅的な損失を引き起こす可能性があります。」

「同様に、新型コロナウィルスとサイバー損失のどちらも、知らないうちに被害を受ける可能性があります。新型コロナウィルスに感染しても無自覚である可能性がありますが、同様に、残念ながら手遅れになるか他の人にその状態を伝えるまで、サイバー侵害を受けたことに気づかない可能性があります」とハニグ氏は続けました。

ハニグ氏は次のように結論づけました。「保険会社は特に、非常に多くの従業員が在宅勤務してリスクが増加しているこの時期に、従業員に慎重になるよう促し続けるため、VPN(仮想プライベートネットワーク)の利用に引き続き注意を払う必要があります。このことは、パンデミックによって増加したリスクの多くを軽減するのに役立ちます。」

AMベストの市場セグメント報告書「サイバー保険:新たなリスクが顕在化するにつれ収益性が低下」を入手するには、こちらをクリックしてください。

※ 文中の金額は1米ドル=106円で換算

  
ICMIFサイトの英語ニュース記事(以下にリンクを表示)を許可を得て翻訳・転載しています。

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