AOA

ICMIFサイトへ

レポート

スイス・リー・インスティテュートが2020年の大災害に対するグローバルな支払保険金額を過去5番目となる830億米ドル(8兆6,320億円)と推計

 

ICMIF協賛会員であるスイス再保険Swiss Re)の暫定的な推計によると、2020年の自然災害および人為的災害による保険業界の損失は世界全体で830億米(8兆6,320億円)ドルに達しました。これは、1970年以降で5番目に業界が多額の支払いを行なった年となります。損失は、米国での記録的な数の激しい対流性の暴風雨(竜巻、洪水、雹(ひょう)を伴う雷雨)と山火事によって引き起こされました。その他の二次災害事象を含めて、これらの被害は世界中における自然災害による保険損害760億米ドル(7兆9,040億円)の70%を占めました 1 。非常に活発な北大西洋のハリケーンシーズンは、2005年と2017年の記録的なシーズンと比較すると中程度の200億米ドル(2兆800億円)の追加的な保険金請求を引き起こしました。保険業界は2020年に世界の経済的損失の45%をカバーしましたが、これは10年間の平均値である37%を上回っています。

気候変動は、より湿潤な空気と気温の上昇によって一層極端な気象条件を生み出し、二次災害事象を激化させると見込まれます。それらは、山火事、高潮、洪水などのイベントの発生と拡大に輪をかけます。

「新型コロナウィルスと同様に、気候変動は世界的な回復力の大きな試練となるでしょう。パンデミックも気候変動も『ブラックスワン』イベントではありません。しかし、新型コロナウィルスには終息する時が来ますが、気候変動はそうではありません。そして、世界経済の回復を今『グリーン化』できなければ、将来的に社会のコストが増大します」とスイス再保険(Swiss Re)のグループ・チーフエコノミスト、ジェローム・ジャン・ヘーゲリ(Jerome Jean Haegeli)氏は述べています。「今年の自然災害は、保険の普及率がより高い地域に影響を与え、影響を受けた人や地域社会に重要なサポートを提供し、その経済的回復力を強化しました。」

米国では、記録的な数の激しい対流性暴風雨が年間を通じて大被害を引き起こし、この災害による同国における記録的な年間損失につながる可能性があります。オーストラリアとカナダは2020年に雹(ひょう)による被害で大きな損失を被りました。1月にはオーストラリア南東部での雹(ひょう)の嵐により10億米ドル(1,040億円)を超える保険損害が発生し、カナダでは6月にカルガリーで史上最高額の雹(ひょう)被害を経験し、その損失は10億米ドルとなりました。

火災もまた、保険会社の二次災害の損失の一因となりました。オーストラリアの2019年の山火事シーズンは、これまでに記録された中で最も長く続き、最も破壊的なもので、2020年前半にはまだ鎮火していませんでしたが、8月中旬からの米国の山火事が主に高額の保険損害を引き起こしました。米国のカリフォルニア州、オレゴン州、ワシントン州では、800件の山火事が約600万エーカー(2万4,281平方キロメートル)を燃やし、数千の建造物を破壊し、数十億ドルの保険金請求を引き起こしました。2018年と2017年の記録的な損失よりは少ないものの、2020年の損失は火災による保険損害額で上位に入るでしょう。

その他の二次災害には、約20億米ドル(2,080億円)の保険損害が発生した5月以降の中国の揚子江沿岸のいくつかの省での深刻な洪水などがあります。

  ハリケーンの数は記録的だが損失は中程度

2020年の北大西洋のハリケーンシーズンには、過去最高となる30個の名前が付けられたハリケーンが発生し、そのうち5個は米国ルイジアナ州に上陸しており、これも過去最高でした。今年は、大気と海洋の条件が独特に組み合わさって、平均をはるかに超える数のハリケーンが発生し上陸すると予測されていました。しかし、2020年における米国へのハリケーン上陸の大半は人口密集地域に来襲しなかったため、保険損害額は200億米ドル(2兆800億円)と比較的低く、2017年の記録的なハリケーンシーズン(ハービー、イルマ、マリア:970億米ドル(10兆880億円))および2005年(カトリーナ:870億米ドル(9兆480億円))よりもはるかに低いものとなりました。

「北大西洋の大規模な気候条件は、2021年も、そしておそらくそれ以降も、ハリケーンが活発化することを示唆しています。これにより壊滅的なハリケーン上陸の可能性が高まります。気候変動によって加速される二次災害の損失の影響と相まって、大災害の保険損失は将来的に増加する一方でしょう」とスイス再保険の大災害危険担当責任者であるマーティン・ベルトッグ(Martin Bertogg)氏は述べています。

2月に冬の嵐が北ヨーロッパを襲い、洪水、停電、輸送の混乱を引き起こし、合計で20億米ドル(2,080億円)を超える保険損害が発生しました。5月にベンガル湾で発生したサイクロン「アンファン」は、インドがこれまでに経験した中で最も破壊的な熱帯サイクロンで、130億米ドル(1兆3,520億円)の経済的損失をもたらしました。当地域の保険普及率が低いため、保険損害は経済的損失のほんの一部にすぎないと推測されます。

シグマ調査誌(sigma)によるこれらの大災害損失の推計は物的損害に関するものであり、新型コロナウィルスに関連した請求は除外されています。このメディア向けリリースの損失推計は暫定的なものであり、すべての損失発生イベントが完全に評価されているわけではないため、変更される可能性があります。新型コロナウィルスは、特に大規模なイベントに関して保険金請求のライフサイクルを引き延ばし、最終的な集計を評価するには、通常よりもかなり時間を要するでしょう。

スイス・リー・インスティテュートSwiss Re Institute)は、2021年春のシグマ調査誌の完全版レポートにおいて、更新された2020年の損失数値を公開する予定です。

「シグマ・エクスプローラーWebアプリ」がさらに充実しました。sigma-explorer.comにアクセスして、世界地図に投影された自然災害データを表示、ダウンロード、共有しましょう。

 

1 業界の慣行では、次の2種類のイベントを二次災害と見なします。(a)独立し、高頻度(つまり地震やハリケーンなどの一次災害のイベントよりも頻繁するもの)で、深刻度が(一次災害に起因する損失と比較して)低から中程度の損失イベント、(b)一次災害の二次的影響として発生するイベント(例えば地震後の津波)

※ 文中の金額は1米ドル=104円で換算

 

ICMIFサイトの英語ニュース記事(以下にリンクを表示)を許可を得て翻訳・転載しています。

ページの先頭に戻る
トップページに戻る