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気候リスク評価の最先端アプローチを試行実施する共同作業に加わったICMIF会員団体

 

過去1年間、22の主要な保険会社と再保険会社が、国連環境計画の「持続可能な保険原則(PSI)」の後援の下で協力し、保険事業における気候関連の物理的リスク、移行リスクおよび訴訟リスクをより適切に評価するため、最先端のアプローチ、特に気候変動シナリオの使用を試験的に実施してきました。

4つのICMIF会員組織がこの先駆的な共同作業に加わりました。カナダのコーポレーターズThe Co-operators)とデジャルダンDesjardins)、スウェーデンのレンスフォーシェクリンガーLänsförsäkringar Sak)、そしてICMIF協賛会員であるスイスのスイス再保険Swiss Re)です。

最終報告書「気候変動の保障:保険業界による気候変動の未来の評価を強化する」では、世界の収入保険料の10%以上を占め、そして運用資産額6兆米ドル(624兆円)を保有する保険会社による、金融安定理事会の「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」の最も挑戦的な勧奨事項のいくつかを試験的に実施した最大の共同作業における主要調査結果を取り上げています。このPSIパイロットプロジェクトの全体的な目的は、将来を見据えたシナリオベースの手法による保険引受ポートフォリオにおける気候変動関連のリスクと機会を特定、評価、開示するために使用できる、一貫性のある透明な分析アプローチの開発に貢献することです。

保険業界は、世界全体で保険料が6兆米ドル(624兆円)を超え、運用資産額は36兆米ドル(3,744兆円)を超える世界最大の業界の1つです。そのため、保険会社はバランスシート上に世界経済の資産と負債の相当な部分を保有しています。保険業界は、リスクマネージャー、保険者、そして投資家として、気候変動に強い地域社会を構築し、ネットゼロ排出経済への移行を加速する上で主導的な役割を果たすことができます。

PSI報告書の序文で、国連気候アクション・ファイナンス特使であり、2021年の第26回気候変動枠組条約締約国会議(COP26)における英国首相の財務顧問であるマーク・カーニー(Mark Carney)氏は次のように述べています。「これは、保険会社が気候リスクにより効率的に対処し、リスク管理の最前線に立ち、より幅広い保険業界、その保険契約者、およびその利害関係者によるより大きな気候アクションを推進するために必要な種類の取り組みです。変動する気候の中で、保険会社は脆弱な地域社会を護り、回復力を構築して炭素を貯蔵する自然の生態系を保護し、パリ協定にビジネス活動を合致させる革新的な手法を開発しています。ますます多くの大手保険会社が投資ポートフォリオをネットゼロ排出量に移行させており、引受ポートフォリオでも同様の取り組みを行う時期が来ています。」

保険会社が直面する可能性のある潜在的な気候変動関連のリスクと機会は、次の3つのカテゴリーに分類できます。

      • 気象パターン、気温、水文的条件の変化に関連する物理的リスク
      • ネットゼロ排出経済への移行リスクと、例えばエネルギー、食品、交通システムにおける関連するファンダメンタルな変化
      • 気候変動ならびにビジネスと企業の両方のレベルでの基本的な法的枠組みへの違反に関連した潜在的な訴訟リスク

「気候リスクと回復力を財務上の意思決定の中心に取り込むためには、気候開示(報告)を包括的なものとする必要がありますし、気候リスク管理を変革し、持続可能な投資(リターン)を一般化する必要があります。このことが、国連環境計画の持続可能な保険原則(PSI)によるこの先駆的な報告がタイムリーである理由です」と、COP26プライベート・ファイナンス・ハブの作業を率いるカーニー氏は述べています。同氏は前金融安定理事会議長であり、前イングランド銀行総裁です。

当レポートのアプローチは、金融セクターに焦点を当てた従来のTCFDの出版物とは本質的に異なります。第一にこのレポートは、保険業界が気候変動リスクを統合的に評価する必要があることを認めています。これは、気候関連の物理的リスク、移行リスク、および訴訟リスクを1つの共同作業でカバーする先駆的な取り組みです。第二に、この報告書は、気候関連の訴訟リスクを評価する手法を開発する上で、まだ準備段階ではあるものの画期的なものです。第三に、報告書は、気候変動が下振れリスクだけでなく、変化するリスク環境の中で新たな保険商品を開発したり既存の保険商品を拡張したりする上向きの機会ももたらすことを示しています。最後に、パイロットプロジェクトに使用されたすべてのデータは、信頼できる情報源から公開されています。これは、プロジェクト用に開発された評価フレームワークを、世界中のさまざまな保険会社で使用できるようにするのに役立ちます。

「最新の気候科学に基づいて全体像を見ると、2030年までの10年間は、パリ協定の目的を達成するために世界のCO2排出曲線をシフトさせる、世界にとって最も重要な時期を表しています。同時に、人間の悲劇、食糧と水の不安、大きな経済的損失、生物多様性の損失、生態系の劣化の観点から、世界中ですでに見られ、感じられている気候変動の悪影響に対処することが重要です」と、国連環境計画(UNEP)でPSIを率いているブッチ・バカニ(Butch Bacani)氏は述べています。「このレポートは後知恵と先見性の両方を用いて、保険業界がリスク意識の高い世界および必要となる喫緊の気候トランジション(移行)に向け独自に具体的な歩みと寄与をしていることを示します。」

  関与したICMIF会員組織CEOの発言から

「現在および将来の世代の経済的安全を守るために、私たちの業界は、気候変動がもたらす複雑なリスクを評価するために協力し合わなければなりません。これらの勧奨事項を通じて、業界として気候リスクをより適切に評価し、より気候変動に強い未来へのスムーズな移行を可能にするフレームワークを開発することができます。」 コーポレーターズ(The Co-operators) 社長兼最高経営責任者(兼ICMIF理事会副会長) ロブ・ウェセリング(Rob Wesseling)氏

「協同組合金融機関および保険者として、デジャルダンは気候変動が私たちの社会と環境に与える重大な影響に取り組むことを約束しています。このパイロットプロジェクトへの参加は、カナダ全土の会員、顧客、地域社会を最終的に適切に保障するために、保険業界の革新的な方法論の開発に貢献しました。」 デジャルダン・グループ(Desjardins Group) 社長兼最高経営責任者 ガイ・コルミエ(Guy Cormier)氏

「私たちは、気候リスクと機会、およびネットゼロ排出社会への移行に貢献する方法についての理解を深めるために、このグローバルな共同作業に参加しました。私たちの次のステップは、これまで以上に準備が整ったこの旅を続けることです。一緒に気候変動と戦いましょう。」 レンスフォーシェクリンガー(Länsförsäkringar Sak Försäkrings AB) 最高経営責任者 ビョルン・ダレモ(Björn Dalemo)

「保険業界は、ネットゼロ経済への移行において、リスクマネージャー、保険者、投資家として重要な役割を果たしています。気候関連の財務リスクと機会の開示はほんの始まりに過ぎません。今、私たちは気候変動に強い経済を達成するためのセクター横断的な行動を加速する必要があります。」 スイス・リー(Swiss Re) グループ最高経営責任者 クリスチャン・ミューメンターラー(Christian Mumenthaler)氏

パイロットグループに参加した22の保険会社と再保険会社(ICMIF会員4組織を含む)はすべて、国連の「持続可能な保険原則(PSI)」に署名済みです。具体的には次の各社です。Allianz(ドイツ)、Aviva(イギリス)、AXA(フランス)、Desjardins(カナダ)、Generali(イタリア)、IAG(オーストラリア)、ICEA LION(ケニア)、Intact(カナダ)、Länsförsäkringar Sak(スウェーデン)、Lloyds Banking Group(イギリス)、MAPFRE(スペイン)、MS&AD(日本)、Munich Re(ドイツ)、NN(オランダ)、QBE(オーストラリア)、損保ジャパン(日本)、Storebrand(ノルウェー)、Swiss Re(スイス)、TD Insurance(カナダ)、The Co-operators(カナダ)、東京海上火災(日本)、Zurich(スイス)。プロジェクトへの寄与者には、このプロジェクトに助言し検証を行ったPwCや、気候関連の訴訟リスクに関する作業を支援したコロンビア大学のサビン気候変動法センター(Sabin Center for Climate Change Law)が含まれます。このプロジェクトは、イングランド銀行の健全性規制機構による訴訟リスクに関する作業からも恩恵を受けています。

序文の最後の部分で、カーニー氏は次のように述べています。「先見の明を持って保障し投資することにより、保険業界は「ホライズンの悲劇(Tragedy of the Horizon)」を打破する機会があります。そうすることで、業界は前例のない「ホライズン上の機会(Opportunity on the Horizon)」をつかみ、より安全・健康、より包括的で繁栄し持続可能な、回復力のあるネットゼロの世界への移行を保障できます。言い換えれば、より持続可能性が高くかつ保険の付保が可能な世界のことです。

「新型コロナウィルスのパンデミックからの持続可能な回復を確実にするために、COP26後に向けた気候アクションとその大望を加速しスケールアップする必要があります。社会の早期警告システムとして、保険業界にはグローバルなナビゲーションシステムとなるユニークな機会があります。それは、社会が今日のリスクを管理し、明日のリスク状況をナビゲートし、その過程で機会を享受するのを助ける業界なのです」とカーニー氏は結んでいます。

  レポート

TCFDの勧奨を施行実施したPSIのプロジェクトに関する最終レポート「気候変動の保障:保険業界による気候変動の未来の評価を強化する」をダウンロード

  国連環境計画の「持続可能な保険原則(PSI)」について

国連事務総長と保険業界のCEO達により承認された「持続可能な保険原則(PSI)」は、保険業界が環境・社会・ガバナンス(ESG)のリスクと機会に対処しするためのグローバルなフレームワークとして、また、回復力があり包括的で持続可能な地域社会と経済を健康な地球の上に構築するための、リスク管理者、保険者、投資家としての保険業界の貢献を強化するグローバルな取り組みとして機能します。

国連環境計画・金融イニシアティブ(UNEP FI)により開発されたPSIは、2012年国連持続可能な開発会(Rio+20)で発表され、国連と保険業界の間の最大の共同取り組みにつながっています。

※ 文中の金額は1米ドル=104円で換算

 

ICMIFサイトの英語ニュース記事(以下にリンクを表示)を許可を得て翻訳・転載しています。

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